thumbSawada3RSウイルス感染症(respiratory syncytial virus infection)は、RSウイルスに感染することで呼吸器疾患を引き起こす感染症である。その症状は発熱や鼻水など風邪に似て、体力のある大人の場合、重症化することはほとんどないが、もともと心肺系に疾患のある人や免疫不全の状態にある人、そして乳幼児は細気管支炎や肺炎などの合併症に注意が必要だ。乳児の場合、生後1歳までに半数以上が初感染するといわれる。日本では、年平均30人強のRSウイルス感染症に起因する死亡例が報告されている。

「とくに生後間もない赤ちゃんにとっては怖いウイルスです。気道に重篤な炎症を引き起こす場合が少なくありません。赤ちゃんのお父さんやお母さんが感染してうつしてしまったり、保育所などの集団施設でもらってきたりすることもあるでしょう。RSウイルスはどこにでもいるウイルスだから感染を防ぐことは難しいかもしれないけれど、感染しても発症を制御して重篤化させないワクチンがあるといいですよね」

こう語るのは、北里大学生命科学研究所を率いる中山哲夫教授のもと、助教としてRSウイルスワクチンの開発に努める澤田成史である。

「北里研究所で開発されたAIK-Cというワクチンがあります。はしか予防の麻疹ワクチンです。このワクチンに遺伝子組み換え技術でRSウイルスを組み込んで、それがワクチンとして使えるかどうか、その実験を行っています」

澤田は北里大学薬thumbSawada2学部の出身。学部4年次から中山教授に師事し、卒業後は同大学院感染制御科学府に進んで研究者としての歩みをスタートさせた。

「北里大学に入学する前に、別の大学の数学科に入学した経緯があります。単に数学が好き、得意というだけで選んだ数学科でした。でも入学してから不安になったんです。同級生と話していてもまるで将来が拓けない。せいぜい中学や高校の数学教師。将来のことなどまるで考えずに進学したことを後悔しました」

将来に不安を感じたまま学び続ける気にもなれず、約半年で退学。特に思い入れがあったわけではないが、薬剤師という将来に直結した薬学部に入り直した。再受験の際は獣医学部も考えたが、2年次から青森・十和田に移ると知って躊躇した。

「そんな僕が、まさか研究者になるなんて……ね」と苦笑する。

薬学部に入学してもなお、漠然と「将来は薬剤師になるのだろう」と思っていたという澤田を変えたのは、大学2年次に履修した授業「ウイルス学」だった。

「すごく興味を覚えたんです。なかでもその制御に。病気をもたらすウイルスをあらかじめ接種して免疫をつくるワクチン……まさに毒を以て毒を制すという感じですよね。すでにある薬を処方するのではなく、まだない薬をつくる、そんなことができれば面白い、そう思ったんです」thumbSawada4

と語る澤田だが、学部4年次に配属された研究室は、まったく別の研究室だったという。

「でもどうしてもあきらめたくなかったから、頼み込んで卒業研究生として中山教授の門下生となることを許されたんです」

数学科から薬学部へ、けれど薬剤師になりたかったわけではい澤田が、はじめて見つけた本当の興味だったのかもしれない。

必ずしも順調とは言えないこれまでの半生を屈託なく語る澤田。その研究が、予防医学、感染制御に道を拓いた北里大学の学祖・北里柴三郎に通ずるものであることは言うまでもない。しかし、澤田にそんな気負いは、まったくなさそうだ。

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