イワシやサバなどの漁獲量が激減、というニュースが報じられることがある。魚が減ることは、食生活に大きな影響をもたらす。世界的な食料危機が懸念される今後においては、水産資源の増減はさらに重大さを増していくだろう。

東京大学大学院で動物プランクトンを使い、「生物個体数の変動機構」を研究していた吉永龍起は、同じ研究室で進んでいたニホンウナギの生態解明に手伝いとして参加した。これが吉永にとって、新たな研究の源流となった。

ウナギは謎の多い魚である。とくにその出生は、アリストテレスに「泥の中から自然発生する」と言わしめた時代から2000年以上を経た現代においても解明されておらず、孵化から管理する完全養殖は実現化できていない。しかも養殖の元種である仔魚(シラスウナギ)は世界中の海で激減し、ヨーロッパ種は絶滅さえ危惧されている。

「1930年代からニホンウナギの産卵場調査が行われ、1991年にはグアム島周辺が産卵場であることが分かりました。しかし、ここから産卵する『地点』を絞り込むことが最大の難関だったのです」

そう語る吉永も1998年から調査に加わった。産卵場調査は、より小さな仔魚、つまり誕生から日が浅い個体や卵をひたすら追い求める。まだ誰も見たことがない天然の仔魚や卵を相手にするため、吉永は遺伝子解析による種査定を担当した。2005年には孵化後2日の仔魚が発見され、調査は佳境を迎えていた。

あとは卵だ。調査チームは来る日も来る日も専用の網を海に入れ続けた。2時間ごとに揚がってくる網から、小鍋1杯ほどのプランクトンが採集できる。揺れる船上で、この中から「それ」をひたすら探していく。成功は天文学的ともいえる確率であり、「無理なのでは」と思う反面、「今度こそ」と祈るような期待にも揺られる。3班交代・24時間体制で続く作業は、まさに大海から1粒のダイヤを拾いあげるかのようだった。

2009年5月22日早朝、水深200メートルから揚げた網の中身には、それまで見たことのない2個の魚卵があった。

「これは?まさか?いや待て?・・・」吉永は遺伝子を調べた。結果は、間違いなくニホンウナギの卵であった。世界中の研究者が誰も成し得なかった、産卵場所特定の瞬間である。のべ数万キロの海路をたどり、ついに巡り会えた直径1.5ミリほどの「それ」は、船窓から入る朝日を受け虹色に輝いていた。

今年6月には同じ海域で、やはりニホンウナギの卵を150個も採取できた。にもかかわらず吉永は、ウナギの謎はむしろ深まったという。

「なぜこの海で生むのか。なぜこの場所にたどりつけるのか。産卵回数もサケは一生に1回ですが、ウナギは複数回という説があるんですよ」

ともあれ産卵場所の特定により、産卵やごく幼少期に適する環境が分かる。このことは自然環境や生物資源の保護だけではなく、養殖技術にも大きな進歩をもたらすだろう。吉永は語る。

「今までは冒険のようなもの。これからが生物学として本番スタートなんです」

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