「うつ」や「パニック障害」「心のケア」といった言葉が、以前より身近になった気はしないだろうか。気軽に受診できるようになり顕在化したという見方もあるが、これらはストレス社会のさまざまな不安が引き起こす、現代病であるとも言える。

袴田優子が携わる臨床心理学では、「不安になりやすい」人は「認知バイアスが強い」とみられることが多い。ここでいうバイアスとは情報処理の偏りをいい、「認知バイアス」には、不安・驚異となる要素ばかりに注意が向いてしまう「注意バイアス」や、どちらにもとれる事柄を悪いほうへとってしまう「解釈バイアス」などがある。

「もちろん多少の偏りは誰にもありますが、それが生活に支障の出るレベルまで進んでしまうと、問題ですよね。そこで認知バイアスを緩和するためのプログラムを開発し、その有効性の検証を始めています」

認知バイアスと性格傾向には密接な関連があるという。認知バイアスの強い人は、物事を悲観的に捉えたり、将来をあれこれ心配したりする傾向が強い。また、こうした性格傾向を強く持つ人は、うつ病や不安障害になる危険性が高いことが知られる。袴田は、こうした人々の不安になるメカニズムに働きかけ、脳の機能画像を用いてその変化や反応の解析に取り組んでいる、この解析では、脳内の各構造物の位置情報と統合し、どこで脳活動の変化が起こっているのかを色に置き換えることで、生きた脳の姿が一目瞭然となる。

脳の画像といえば、まず思い浮かぶのはCTやMRIだが、これらは組織の形や体積を見る構造画像である。機能画像とはfMRIやPETを用いて脳の機能や働きを観察するもので、具体的には神経細胞が働く際のエネルギーとなる糖の代謝や、ドーパミンなどの神経伝達物質が受容体に結合する能力などを数値的に示すことで、刺激に対して脳のどの部分がどう反応するかを評価できる。

袴田は「この解析から得られた画像所見をもとに、うつ病や不安障害の効果的な治療法の開発や改善に役立てたいと考えています。このプログラムの有効性が実証されれば、認知行動療法※などにも組み入れて、もっと効果的な治療を提供できるかもしれません。将来的には、認知バイアスの神経科学的な解明につなげたいですね」と展望する。

認知バイアスを緩和するアプローチは、アメリカやオーストラリアでは研究されているが日本ではほとんど例がなく、袴田の研究も初期段階にすぎない。「今は他の医師や放射線技師とともに、研究体制を固めていく立ち上げ期。北里大学は多彩な分野の専門家がいるうえ、チーム医療が臨床や教育に根付いています。新コースにもポテンシャルを感じますね」

袴田が言う新コースとは、2012年4月に開設された北里大学大学院医療系研究科「臨床心理コース」である。臨床心理士の育成を目指したこのコースでは、もちろん袴田も教鞭をとっている。現代病となった「心の病」を克服していくために、臨床と研究をつなぐ、新しい専門家の誕生が期待されている。

 

※実証的に効果が確認された技法を組み合わせ、精神疾患の改善を図る治療アプローチ。

ページトップ